交通事故弁護ブログ@金沢法律事務所

交通事故に関する法律問題を解説します。@石川県金沢市の弁護士

【交通事故被害者】本来の「通院慰謝料」は自賠責からの提案の通りなのでしょうか?

弁護士 山岸陽平


石川県金沢市で弁護士をしています。弁護士の山岸陽平です。

 

今回は、交通事故の「通院慰謝料」についてお話をしたいと思います。

 

交通事故に遭ったとき、今回は、こちらの過失が少ない場合についてお話しします。

 

多くのケースでは、相手方加入の任意保険会社が「一括対応」といって、自賠責保険への手続を代行してくれます。

 

その際に、同意書を書くことで、相手方加入の保険会社が医療機関に問い合わせて、被害者の情報にアクセスすることができます。

 

その上で、被害者の通院が続いた場合は、通院費を相手方の保険会社が支払ってくれたり、通院日数に応じて自賠責から通院慰謝料が支払われるよう、相手方の保険会社が手続きしてくれます。

 

ここで、自賠責から支払われる通院慰謝料の計算は、どうなっているでしょうか?

 

日額4,300円×対象日数。
対象日数は、「治療期間」と「実治療日数(入院期間+実通院日数)の2倍」のうち、いずれか短い方を採用します。


たとえば、全治1か月(30日)のケガで週2回通院(実治療日数8日)した場合

「治療期間30日」と「実治療日数8日×2=16日」を比較し、より短い16日が対象日数となります。

よって、通院慰謝料の金額は、4,300円×16日=68,800円となります。

 

しかし(ここからがポイントです

 

法律的に、加害者側が支払わなければならない通院慰謝料は、本当に、この額なのでしょうか?

 

実は、そうではないことが多いのです。

 

ケガが骨折などを伴うものなのか(①)、むち打ち症・軽めの打撲や傷なのか(②)によって適用基準は変わってきますが、裁判所がよく用いている基準は、病院での治療期間1か月の場合、①なら約28万円、②なら約19万円となっています。

また、病院への継続的な通院期間が長くなると、実通院治療日数にかかわらず、それだけ治療するのにかかったケガだということで、慰謝料が増えていきます。(ただし、通院頻度がかなり低い場合など例外ケースもあります。)

 

要するに

本来は得られてよい慰謝料を得られていないけれども、自賠責から支払われる通院慰謝料だけの支払いしか受けられていないケースが多いということになります。

 

この裁判所での基準は、もともと裁判をしたことで実現していたものですが、弁護士が保険会社と交渉することで、これに近づけた金額の支払を得ることができることが多くなっています。

 

ということは

弁護士費用特約など、弁護士に相談しやすい環境にある方は、弁護士に相談して、増額が見込めそうであれば、依頼をすることが得策となります。

 

弁護士費用特約は、相談料の負担無しです。

保険会社が相談料を負担して、保険の等級のアップダウンはありません。

弁護士に対応を依頼した場合でも、保険会社の規定を踏まえた弁護士との契約であれば、依頼者の立て替えや持ち出しはありません。

交通事故で、弁護士に相談する場合は、ご自分またはご家族の加入する保険(相手が加入する保険ではありません)の弁護士費用特約の有無を確認し、保険会社に連絡をしてください。

 

金沢法律事務所(代表弁護士 山岸陽平)では、弁護士費用特約をつかった相談やご依頼を随時お受けしています。

被害が大きくなくても、1か月程度以上の通院を伴うケースでは、依頼するメリットが大きいことが多いので、まずは、ご連絡・お相談をお気軽にお願いします。

お体の状況などにもよりますが、ご依頼前のご相談の段階で、一度はご来所をいただくことが多いので、よろしくお願いします。

 

お電話は、076-208-3227 (平日の午前9時から午後5時30分)

メールフォームのご利用は、次のページからお願いします。

bengokanazawa.jp

交通事故と自宅などの改修費・改造費との因果関係

自保ジャーナル2010号(2018年3月22日号)に掲載された東京地裁平成29年9月1日判決(確定)。「左足関節機能障害等の自賠責併合11級認定を受ける88歳女子の自宅前階段改修費は本件事故と相当因果関係が認められると認定した」

 

このケースは、自賠責12級13号右膝痛、12級13号左踵部痛、12級7号左足関節機能障害などから、併合11級の後遺障害認定を受けたうえで訴訟が提起されている。

判決によれば・・・御本人の障害の状況からすると、自宅前の階段は、手すりを設置するだけでは転倒の危険性がなお残る。階段の最上段を改修する必要があるが、そのためにはさらに階段全体の改修も必要。本人、医師、理学療法士ケースワーカー、親族も関与の上で、工事が行われた。

 

自保ジャーナル掲載の他の判決例では、最小限の工事に絞って必要性を認めていたり、同居の家族も利便性向上による利益を享受しているとして3割のみを認めたりしているので、注意が必要だろう。

 

いわゆる赤い本の2018年度版50ページからは、家屋だけではなく、自動車の改造費についても判決例が集積されている。

 

弁護士 山岸陽平 (金沢法律事務所)

嗅覚脱失による後遺障害等級認定

自保ジャーナル2004号(2017年12月28日号)から。

この号で着目したのは、嗅覚脱失のケース。

掲載されている判決は、横浜地裁平成29年5月18日判決(中山典子裁判官)。「12歳男子の12級嗅覚脱失(12級神経機能・精神障害もあり併合11級)は職業選択の範囲が制限される等から67歳まで14%の労働能力喪失を認めた」というもの。

また、参考判決として、以下が挙がっている。

横浜地裁平成25年6月28日判決(自保ジャーナル1904号)・・・12級嗅覚脱失等併合11級の41歳有職主婦。基礎収入をセンサス女性労働者学歴計とし、67歳までの26年間14%の喪失。

東京地裁平成25年11月13日判決(自保ジャーナル1915号)・・・12級嗅覚脱失等併合11級の27歳男性飲食店勤務。実収入を基礎収入として、67歳までの38年間14%の喪失。

東京地裁平成27年9月9日判決(自保ジャーナル1961号)・・・12級嗅覚脱失等併合11級の63歳蕎麦屋経営。基礎収入を原告主張の200万円として、平均余命の半分の約9年間20%の喪失。

 

今回掲載の判決が職業選択の範囲の制限を指摘しているほか、参考判決のうち2件が飲食業の被害者であることからすると、事故後に嗅覚脱失がいかに実際の収入源に結びつくのか、あるいは、将来の就労における選択肢を失わしめるのか、主張立証に取り組む必要があると思われる。

また、本件も参考判決も、いずれも自賠責併合11級のケースである。本件の判決文でも、「原告には、頭部外傷後の神経系統の機能または精神の障害について局部に頑固な神経症状を残すという後遺障害が残存していることを総合考慮すれば」という箇所があり、併発している後遺障害との兼ね合いも大きそうである。

 

弁護士 山岸陽平 (金沢LO)

交通事故による顔面醜状痕・線状痕(顔の傷跡)での後遺症逸失利益認定

自保ジャーナル1998号(2017年9月28日号)から。

この号では、顔面醜状痕に関する判決例が2つ掲載されています。

京都地裁平成29年2月15日判決と、金沢地裁平成28年9月15日判決です。

 

「10歳未満女子の9級16号顔面線状痕は労働能力に影響しないと後遺障害逸失利益を否認し慰謝料870万円を認定した」ケース

京都地裁平成29年2月15日判決です。

線状痕のある部位が髪の生え際から眉毛あたりだということなどから、髪型や化粧などで目立たないようにすることは十分可能であり、将来における労働能力に直接的な影響を及ぼす蓋然性を認めることはできない、として、後遺症逸失利益を否定しています。

ただし、女性として髪型の制限を受けること自体が精神的負担となりうることや、対人関係や体外的な活動に消極的になり性格形成に影響を及ぼす可能性が否定できないこと、また、将来選択できる職業に一定程度の制約が生じる可能性は否定できないことから、後遺障害慰謝料を870万円と認定しています。

ちなみに、交通事故赤本の9級の後遺障害慰謝料は690万円、8級で830万円、7級で1000万円となっていますから、相応の上乗せがある感じです。

「30歳代女子の12級14号顔面線状痕の後遺障害逸失利益を否認し傷害・後遺障害慰謝料450万円を認めた」ケース

金沢地裁平成28年9月15日判決です。

これも、髪を上げて額を出したときに傷跡が見える、すなわち、前髪を下ろした髪型とすることで傷跡を隠すことができるとし、現在の職業(対面接客業や外向けの営業でないもの)や髪型によっては転職への具体的支障も想定しにくいから、労働への直接的ない影響がなく、労働能力を低下させるものだとは認められない、として、後遺症逸失利益を否定しています。

ただし、通院経過(1年間にわたる治療)、間接的な生活や労働への影響を考え合わせ、傷害・後遺障害を含んだ概念としての慰謝料として、450万円を認めています。

ちなみに、交通事故赤本の12か月の通院慰謝料は154万円であり、12級の後遺障害慰謝料は290万円ですので、結局のところ名目はともかく慰謝料は後遺障害がある場合の赤本基準程度になっています。

顔面醜状痕・線状痕の後遺障害逸失利益認定は容易でないようだ

以上からすると、今回取り上げた判決例は、いずれも、額部分の線状痕でしたが、両方とも後遺障害逸失利益を否定しており、自賠責で等級がついたからといって、直ちに訴訟で逸失利益を認定することに直結するとはいえないようです。

それでも、実際には、被害に遭われた方の苦しみは多大なものがあるでしょうから、判決例の傾向を踏まえた上で逸失利益の認定に取り組み、また、慰謝料の増額を図る努力が必要だと思います。

自賠責保険について(概要)

自賠責の対象は人身事故

自賠責保険は、自動車の運行によって他人を傷つけるか死なせた場合(いわゆる人身事故)の人的損害(人損)について支払われる保険です。

車両などの物的損害(物損)は対象になりません。

支払限度額がある

自賠責保険には被害者1名あたりの支払限度額が定められています。

傷害についての支払限度額

傷害については、治療費、休業損害、慰謝料などの項目がありますが、それらを合わせて120万円までとなっています。

後遺障害(後遺症)についての支払限度額

相当期間治療を続けても身体に後遺障害(後遺症)が残る事故の場合は、身体に残った障害の程度に応じた等級により、逸失利益・慰謝料が支払われます。

逸失利益とは、労働能力が減少したことによる将来の収入減少のことです。

後遺障害の慰謝料は、傷害の慰謝料とは別枠です。

これらは、後遺障害等級1~14級に応じ、また、もともとの労働能力に応じ、計算され支払われます。各等級にはそれぞれの限度額があります。

死亡事故の支払限度額

死亡事故においても、逸失利益・慰謝料(本人分・遺族)・葬儀費が支払われますが、3000万円の支払限度額があります。

過失割合について

自賠責保険の特徴は、被害者に過失があっても、過失割合が7割未満にとどまる場合は、認定される損害額が減額されないことです。

一般論で言えば、自分の過失割合分は事故の相手方の責任ではないので相手方や相手方加入の保険会社に支払を求めることができませんが、自賠責保険は被害者保護のため、特別にこのようになっています。

請求、等級認定の流れ

自賠責保険への請求は、加害者や加害者加入の保険会社が被害者に支払ったお金についてすることが実際には多くなっていますが、被害者が直接行うこともできます。

請求があると、自賠責損害調査事務所に書類が送られ、調査が行われます。

後遺障害等級についても、調査事務所において、提出された資料(医師作成の診断書、画像、カルテ、通院記録、意見書等)に基づいて、認定判断が行われます。

この際に、診断書の記載、入通院経過、画像がどのようになっているかが非常に大きなポイントです。

異議申立て

調査事務所の調査結果に対しては、異議申立てをすることができます。

資料や主張の追加なしに判定が覆ることは少なく、判定を覆すためには相応の根拠が必要であるといえます。

いずれにしても、異議段階では再作成が通常困難な資料類もあります(そもそも時間を巻き戻して入通院過程をやり直すことはできません)ので、最初の調査段階までに、後遺障害の状況を具体的・正確に示す資料が整っているに越したことはありません。

参考(相手方任意保険やその他の制度との関係性)

自賠責保険の支払には限度額があるほか、慰謝料などの金額の基準が裁判基準より低いという問題があるので、自賠責保険への請求だけでは済まないようなケースでは、人損について相手方(加害者)に請求し、多くの場合相手方任意保険会社と交渉をすることになります。その際には、過失割合の問題もクローズアップされることがあります。

また、事故に遭った状況(勤務中、通勤中など)によっては、労災の請求ができる場合もあります。労災では、自賠責保険とは異なった機関が後遺障害等級を認定するので、自賠責の等級とは異なった等級が示されることもありますし、過失割合や自賠責の限度額の問題などとの兼ね合いで、労災給付を積極的に受けたほうがよい場合もあります。

被害者に過失割合がある場合などは、被害者加入の人身傷害補償保険に請求することもあります。

基本的には同じ理由で重複した賠償・給付を受けることはできません(労災の特別支給金など別途受けられるものもあります)。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平

信号のない交差点での横断歩行者対自動車の事故における過失認定

自保ジャーナル1988号(2017年4月27日発行)のうち、今回は、過失割合に関係することを取り上げます。

このブログでは、交通事故関係について幅広く書き、自分自身の知識の定着にも生かしていきたいと思っています。そのため、1記事あたりの深さにはばらつきがあるかもしれませんがご容赦を。

信号のない交差点の横断歩行者に過失が認められるケース、認められないケース

歩行者が交通事故により負傷し、後遺障害が残存したケースにおいて、相手方加入の保険会社に損害の一切の支払いを請求したとき、相手方から歩行者側の過失による過失相殺を主張されることがあります。

今回は、信号のない交差点を歩いて横断していた際、特に右折してきた車両との事故において、裁判例がどのように判断したか、まとめてみます。

横断歩道を横断

自保ジャーナル1988号52頁掲載の東京地裁平成28年9月12日判決においては、過失割合について次のように判示しています(以下、当ブログにおいて裁判例の引用の際には、適宜当事者呼称等を略称化したり、一部削除していますので、ここから再利用されることなく、原典に当たって下さい。)。

Y(運転者)の過失は、横断歩道を通過するにもかかわらず、進路前方を注視せず、横断歩道上の歩行者の有無を全く確認しなかったというもので、その程度は極めて重大である。これに対し、原告は横断歩道上を歩行しており、それでもなお過失相殺を相当とする不注意を認めるべき具体的事実の主張立証はなく、過失相殺は認められない。

この判決では、横断歩道上を歩行している以上、過失なしの推定が働くかのような判示がなされているといえます。

なお、自保ジャーナル1917号88頁掲載の東京地裁平成25年12月18日判決も、横断歩道歩行中の事案です。このケースでは


 Yは,本件事故が信号機の設置されていない本件横断歩道上での事故であったこと,Xが夜間では見えづらい黒っぽい服装であったこと,本件事故現場は非市街地であり,車両や人の交通量が少なく,このような道路状況下では,車両がある程度速度を出して走行してくることも全く予見不可能とまではいえないこと,本件事故が夜間であり,車両の運転者からは昼間に比べて歩行者等の発見しにくい状況であるのに対し,歩行者からは車両の前照灯の明かりによりある程度遠くからでも車両の走行を確認することができる状況にあり,Y車が前照灯をつけていたこと等の事情を考慮すると,Xにも前方不注視等の過失により,少なくとも5%の過失相殺がされるべきであると主張する。
 しかし,本件交差点にはY車の右折進行方向出口に本件横断歩道が設置されていたのであるから,Yは,本件横断歩道を通過する際に本件横断歩道によってその進路の前方を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除き,本件横断歩道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならず,歩行者があるときは,本件横断歩道の直前で一時停止し,かつ,その通行を妨げないようにしなければならない注意義務を負っていたものであり(道路交通法38条1項),それにもかかわらず,Yは,本件交差点を右折進行するに当たり,本件横断歩道上の歩行者の有無に十分な注意を払っていなかったばかりか,本件交差点を時速20~25kmもの速度で漫然と通過しようとしていたものであるから,Yの注意義務違反の程度は著しいものといわざるを得ない。
 そうすると,本件事故が夜間であり,本件事故現場付近が暗く,人通りも少ない場所であって,見通しが必ずしも良好でなかったこと等の事情を考慮しても,過失相殺として,本件横断歩道を横断中のXの過失を問うことは相当ではないというべきである。
 したがって,この点に関するYの主張は,採用の限りでない。

とされ、歩行者に不利になりかねない具体的な事情を踏まえながらも、自動車側の注意義務違反の程度の著しさを指摘し、歩行者の過失を認定していません。

横断歩道ではないところを横断

他方、自保ジャーナル1964号25頁掲載の東京地裁平成27年11月10日判決は、

X(歩行者)は,直線路南側の歩道を▲▲方面から進行して本件交差点で突き当たり路を横断しようとしたところ,Y車が直線路の対向方向から南側車線を歩道にまたがる態様でゆっくりと逆走してきた。窓ガラスは全て黒色のスモークガラスで車内が見えず,合図もなかったため,XはY車がどのように走行するのか全くわからず,Y車を回避すべく突き当たり路に大きく回りこんで横断歩行したところ,Y車が突然突き当たり路に右折進入し,Xに衝突した。

とX側が主張しているケースです。

すなわち、横断歩道ではないところの横断です。

このケースで裁判所は次のように判断しています。

直線路は本件交差点内を中央線が貫通しており,突き当たり路に対して優先道路であること,Y車は直線路の北側車線を△△方面から▲▲方面に向かって進行し,本件交差点を右折するため合図を出して対向車が通過するのを待機し,対向車が左折するのに続いて右折進行する際,直線路南側の歩道を▲▲方面から歩行し突き当たり路を横断歩行してきたXに気付き,ブレーキを踏んだが間に合わずXに衝突したことという事実が認められる。
Xは,Y車が直線路を歩道をまたぐ態様で逆走してきたのでこれを回避するため突き当たり路に入り,突き当たり路を横断したところ突然Y車がぶつかって来たと供述するが,Y車が走行するに当たって障害物となるようなものがあったことは窺われないことに照らすと,Y車があえて反対車線を逆走するという危険な走行をしたとは考え難く,Xの供述はにわかに信用できない。他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
上記事故態様によれば,Yは本件交差点を右折進行するに当たり,前方注視義務を怠った過失がある。他方,Xも本件交差点を横断するに当たり,直線路を右折進行する車両の有無及び動静に注意する義務を怠ったという過失がある。双方の過失の内容,道路状況等を総合考慮すると,Xの過失割合は10%とするのが相当である。

この場合、歩行者に一般的・抽象的な注意義務違反を認めています。

コメント

この判決例は、ごく一例とはいえるでしょうが、参考になるものだといえます。ここから考えられることをまとめてみます。

横断歩道を歩行中の場合は、歩行者に具体的な不注意がみられるか、また、自動車側の注意義務違反の程度はどうかがポイントになろうと思われます。

横断歩道でないところの横断の場合には、具体的事情にもよりますが、抽象的な注意義務違反により過失が認定される可能性が低くないように思われます。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平

後遺障害が重篤で、将来介護費が多額になるケース

自保ジャーナル1987号(2017年4月13日発行)のうち、注目したのは、次の2つの裁判例です。

  • 1級1号遷延性意識障害を残す35歳女子の将来介護費を母親67歳を超え今後職業介護人の必要性が高まると日額2万円で認定した(東京地裁平成28年9月6日判決)
  • 1級四肢麻痺を残す47歳男子の将来介護費を職業付添人と近親者合わせて日額1万8000円で認定した(大阪地裁平成28年8月29日判決)

2つとも、後遺障害1級と重篤なケースであり、将来介護費が請求されています。

親族による介護費用、職業介護人による介護費用

東京地裁の判決では、裁判の口頭弁論終結までを日額1万円とし、口頭弁論終結後は日額2万円の計算で認めています。

この被害者の場合、事故後49年分が認められていますが、単純に2万円 × 365日 × (49年ー事故から口頭弁論終結までの年数) ではなく、2万円 × 365日 × (ライプニッツ係数49年-事故から口頭弁論終結時のライプニッツ係数)となります。ライプニッツ係数49年-事故から口頭弁論終結時のライプニッツ係数は、18.1687 - 4.5で、13.6687でした。ライプニッツ係数は、さしあたって以下を参照して下さい。

ライプニッツ係数 - Wikipedia

こうして、口頭弁論終結後の分について、約1億円の介護費用が認定されました。

なお、この訴訟において、被告は、障害者総合支援法に基づく給付を受けられる分については損害が発生していないと解すべきであると主張したようですが、「同法に基づく給付が今後も確実に継続するかは不明」ということで主張が採用されませんでした。

この被害者については、認定された逸失利益が1090万程度にとどまり、後遺障害慰謝料が3000万円であったなかで、介護費用の占める部分は大きかったといえます。成年後見人・後見監督人費用も認められています。

在宅介護における近親者と職業付添人とで合わせての介護費用を算出

大阪地裁の訴訟では、原告が在宅介護(職業付添人と妻による)で月額約108万円+日額1万円を主張したのに対し、被告は、「職業介護人が常駐している医療機関や施設での療養が相当であり、職業介護に全面的に依存する形態での在宅介護への移行は、社会通念上も、社会経済的にも相当性を欠き、異常」と主張しました。

判決は、職業付添人による介護と親族による介護を並行する在宅介護の必要性・相当性を認めたものの、費用は日額1万8000円を認定しました。

この被害者についても、後遺障害逸失利益は約4438万円、後遺障害慰謝料は2500万円でしたが、将来介護費は約9320万円となり、最も大きい項目となりました。

なお、原告が主張した「自宅購入費」は斥けられています。

コメント

両方の訴訟において、訴訟における将来介護費の請求・認定にあたっては、具体的な介護態勢やその必要性・相当性が問われました。

訴訟代理人の弁護士は、症状の重篤性だけではなく、親族の状況や介護サービスをよく調査しなければなりませんし、場合によっては、将来介護の態勢整備に関与していく必要もあるのではないかと思われます。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平