交通事故弁護ブログ@金沢法律事務所

交通事故に関する法律問題を解説します。@石川県金沢市香林坊の若手弁護士

後遺障害が重篤で、将来介護費が多額になるケース

自保ジャーナル1987号(2017年4月13日発行)のうち、注目したのは、次の2つの裁判例です。

  • 1級1号遷延性意識障害を残す35歳女子の将来介護費を母親67歳を超え今後職業介護人の必要性が高まると日額2万円で認定した(東京地裁平成28年9月6日判決)
  • 1級四肢麻痺を残す47歳男子の将来介護費を職業付添人と近親者合わせて日額1万8000円で認定した(大阪地裁平成28年8月29日判決)

2つとも、後遺障害1級と重篤なケースであり、将来介護費が請求されています。

親族による介護費用、職業介護人による介護費用

東京地裁の判決では、裁判の口頭弁論終結までを日額1万円とし、口頭弁論終結後は日額2万円の計算で認めています。

この被害者の場合、事故後49年分が認められていますが、単純に2万円 × 365日 × (49年ー事故から口頭弁論終結までの年数) ではなく、2万円 × 365日 × (ライプニッツ係数49年-事故から口頭弁論終結時のライプニッツ係数)となります。ライプニッツ係数49年-事故から口頭弁論終結時のライプニッツ係数は、18.1687 - 4.5で、13.6687でした。ライプニッツ係数は、さしあたって以下を参照して下さい。

ライプニッツ係数 - Wikipedia

こうして、口頭弁論終結後の分について、約1億円の介護費用が認定されました。

なお、この訴訟において、被告は、障害者総合支援法に基づく給付を受けられる分については損害が発生していないと解すべきであると主張したようですが、「同法に基づく給付が今後も確実に継続するかは不明」ということで主張が採用されませんでした。

この被害者については、認定された逸失利益が1090万程度にとどまり、後遺障害慰謝料が3000万円であったなかで、介護費用の占める部分は大きかったといえます。成年後見人・後見監督人費用も認められています。

在宅介護における近親者と職業付添人とで合わせての介護費用を算出

大阪地裁の訴訟では、原告が在宅介護(職業付添人と妻による)で月額約108万円+日額1万円を主張したのに対し、被告は、「職業介護人が常駐している医療機関や施設での療養が相当であり、職業介護に全面的に依存する形態での在宅介護への移行は、社会通念上も、社会経済的にも相当性を欠き、異常」と主張しました。

判決は、職業付添人による介護と親族による介護を並行する在宅介護の必要性・相当性を認めたものの、費用は日額1万8000円を認定しました。

この被害者についても、後遺障害逸失利益は約4438万円、後遺障害慰謝料は2500万円でしたが、将来介護費は約9320万円となり、最も大きい項目となりました。

なお、原告が主張した「自宅購入費」は斥けられています。

コメント

両方の訴訟において、訴訟における将来介護費の請求・認定にあたっては、具体的な介護態勢やその必要性・相当性が問われました。

訴訟代理人の弁護士は、症状の重篤性だけではなく、親族の状況や介護サービスをよく調査しなければなりませんし、場合によっては、将来介護の態勢整備に関与していく必要もあるのではないかと思われます。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平