交通事故弁護ブログ@金沢法律事務所

交通事故に関する法律問題を解説します。@石川県金沢市香林坊の若手弁護士

交通事故による顔面醜状痕・線状痕(顔の傷跡)での後遺症逸失利益認定

自保ジャーナル1998号(2017年9月28日号)から。

この号では、顔面醜状痕に関する判決例が2つ掲載されています。

京都地裁平成29年2月15日判決と、金沢地裁平成28年9月15日判決です。

 

「10歳未満女子の9級16号顔面線状痕は労働能力に影響しないと後遺障害逸失利益を否認し慰謝料870万円を認定した」ケース

京都地裁平成29年2月15日判決です。

線状痕のある部位が髪の生え際から眉毛あたりだということなどから、髪型や化粧などで目立たないようにすることは十分可能であり、将来における労働能力に直接的な影響を及ぼす蓋然性を認めることはできない、として、後遺症逸失利益を否定しています。

ただし、女性として髪型の制限を受けること自体が精神的負担となりうることや、対人関係や体外的な活動に消極的になり性格形成に影響を及ぼす可能性が否定できないこと、また、将来選択できる職業に一定程度の制約が生じる可能性は否定できないことから、後遺障害慰謝料を870万円と認定しています。

ちなみに、交通事故赤本の9級の後遺障害慰謝料は690万円、8級で830万円、7級で1000万円となっていますから、相応の上乗せがある感じです。

「30歳代女子の12級14号顔面線状痕の後遺障害逸失利益を否認し傷害・後遺障害慰謝料450万円を認めた」ケース

金沢地裁平成28年9月15日判決です。

これも、髪を上げて額を出したときに傷跡が見える、すなわち、前髪を下ろした髪型とすることで傷跡を隠すことができるとし、現在の職業(対面接客業や外向けの営業でないもの)や髪型によっては転職への具体的支障も想定しにくいから、労働への直接的ない影響がなく、労働能力を低下させるものだとは認められない、として、後遺症逸失利益を否定しています。

ただし、通院経過(1年間にわたる治療)、間接的な生活や労働への影響を考え合わせ、傷害・後遺障害を含んだ概念としての慰謝料として、450万円を認めています。

ちなみに、交通事故赤本の12か月の通院慰謝料は154万円であり、12級の後遺障害慰謝料は290万円ですので、結局のところ名目はともかく慰謝料は後遺障害がある場合の赤本基準程度になっています。

顔面醜状痕・線状痕の後遺障害逸失利益認定は容易でないようだ

以上からすると、今回取り上げた判決例は、いずれも、額部分の線状痕でしたが、両方とも後遺障害逸失利益を否定しており、自賠責で等級がついたからといって、直ちに訴訟で逸失利益を認定することに直結するとはいえないようです。

それでも、実際には、被害に遭われた方の苦しみは多大なものがあるでしょうから、判決例の傾向を踏まえた上で逸失利益の認定に取り組み、また、慰謝料の増額を図る努力が必要だと思います。